No.A095
年齢 | 33 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/07 |
剖検年月日 | 1945/09/07 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(中国第104部隊兵舎) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中国第104部隊の軍人でした。
兵舎の2階で被爆しました。制服を着用しており、やけどやけがはありませんでした。
症状の経過
被爆後数日食欲不振がありました。
8月21日に頭髪の脱毛が始まり、その後全身倦怠感を生じ、8月28日に宇品陸軍病院に入院しました。
8月31日には口内炎と咽頭炎がみられました。
9月1日に、胸部や腹部の皮膚に点状出血が出現し、発熱も始まりました。体温の最高は40.5℃でした。
9月5日の血液検査では赤血球267万/μl、白血球600/μlといずれも著しい低値でした。
当時の記録からわかること
全身の皮膚、歯肉、両側肺、左胸腔、心外膜、腎臓、胃などに出血が見られました。
頚部、顎下部、気管周囲、肺門部、鼠径部、大腿部、腸間膜のリンパ節が腫大していました。頚部と顎下部のリンパ節には出血も見られました。
扁桃腺(咽頭部、舌部)は壊死していました。
回盲部には複数の深い潰瘍があり、潰瘍底には血液塊が付着していました。
大脳はうっ血しており、小脳の表面には点状出血がありました。
病理組織標本からわかること
残っている標本は腎臓と脳のみです。当時の記録には以下の記述があります。
肺の壊死巣の中心では、細気管支上皮は完全に壊死しており、内腔には細菌の塊が見られました。
大腿骨の骨髄は細胞は増加していましたが、主な細胞は大型のリンパ球で、成熟した白血球はあまり見られませんでした。赤芽球の大きな集まりが見られ、これは再生初期の骨髄と考えられました。
まとめ
骨髄では、放射線の影響による造血組織の萎縮がみられ、血小板の減少による出血が、全身の皮膚や歯肉などにみられます。免疫低下状態にもあったと思われ、扁桃腺には壊死がみられます。一方骨髄には細胞密度の高い部分もあり、赤芽球の集まりもみられることから、造血細胞の再生が起き始めているようです。
脾臓やリンパ節でもリンパ球産生の低下がみられ、これも放射線の影響と思われます。
肺では実質に細菌塊を伴う壊死性変化がみられ、急性気管支肺炎の存在が示唆されます。これが直接的な死因になったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/11