Data Explanation

データ解説

No.A094

年齢 46 歳
性別
死亡年月日 1945/09/02
剖検年月日 1945/09/03
被爆距離 1100 m
被爆時地名 広瀬北町

被爆状況

木造の日本家屋の1階に座っていて被爆しました。
肘に傷を負いました。

症状の経過

被爆当日には、はきけや嘔吐、下痢などはありませんでした。
8月23日に歯肉炎と歯肉出血、全身のあざがみられました。
8月28日、全身のだるさと食欲不振が出現しました。傷が化膿し、発熱し、敗血症と診断され、西条の傷痍軍人広島療養所に入院しました。
8月30日からは39℃以上の発熱が続きました。
8月29日の血液検査では、白血球数は880/μlと著しい低値でした。

当時の記録からわかること

小さな点状出血が全身にみられました。
腹膜にも点状出血があり、100 mlの血性腹水がたまっていました。腹膜の癒着多巣性にみられました。
右肺上葉には大きな出血巣がありました。左肺尖部にも出血性の結節がみられました。
胃の中には血液がたまっていました。粘膜は赤く腫れ、多くの点状出血が見られました。幽門部には出血している部分がありました。回腸やS状結腸と直腸にも点状出血が散在していました。
口の中の粘膜は全体に腫れており、出血がありました。右の扁桃腺は壊死していました。

病理組織標本からわかること

肝臓の小葉全体に肝細胞の軽度の萎縮がみられ、類洞の拡張を伴っています。
脾臓のリンパ濾胞は小さく、類洞は内腔の拡張を示しています。細網細胞が増殖しています。
リンパ節:リンパ球の減少は軽度です。
扁桃腺の上皮の一部に凝固壊死が見られます。リンパ球の減少は軽度です。
大脳の神経細胞の脱落や変性は目立ちません。

正常画像 肺(×6)
多巣性肺胞内に滲出液が見られます。
正常画像 肺(×50)
まくろふぁや少数の好中球が見られます。
正常画像 骨髄(×200)
細胞密度は高く、リンパ球形質細胞のほかに、小型の巨核球(→)や赤芽球が見られます。

まとめ

血液検査で白血球の減少があり、これは原爆による放射線障害と思われます。血小板も少ないと考えられ、そのため腹膜、消化管、口腔内などに点状出血あるいは出血がみられます。また、感染に弱い状態にあったと思われ、扁桃腺や咽頭などに壊死性変化を認めます。しかし骨髄の一部では細胞密度の高い部位があり、巨核球などを見ることから、再生所見を伴うと思われます。
脾臓でのリンパ球産生の軽度の低下も放射線による影響と考えます。
両肺には広い範囲で炎症巣がみられ、急性気管支肺炎と考えられます。
この、両肺の出血を伴う急性気管支肺炎が直接的な死因と思われます。

作成日
最終更新日
2022/10/24

白血球
血液の細胞の一つ。体を感染から守る働きをしている。好中球、リンパ球、単球、好酸球などの種類がある。基準値:3300~9000/μl。
赤血球
血液の細胞の一つ。全身に酸素を運ぶ。基準値:(男性)430~550万/μl、(女性)380~490/μl。
血小板
血液の細胞の一つ。血を止める働きがある。基準値:15~35万/μl。
骨髄
骨の中にある組織。血液細胞はここで作られる。
好中球
白血球の一種で、細菌や真菌を飲みこんで殺す。
リンパ球
白血球の一種。免疫に関与し、ウイルスを攻撃する。
巨核球
血小板のもとになる細胞。骨髄で見られる。
形質細胞
リンパ球が分化した細胞で、異物を認識する抗体を産生する。骨髄で見られる。
単球
白血球の一種。死んだ病原体や傷んだ細胞を食べて取り込む
好酸球
白血球の一種で、寄生虫に感染した際に体を守る
菌血症
血液中に細菌が存在する状態
敗血症
細菌が体の中で増殖し、臓器の働きが悪くなっている状態
敗血症性ショック
敗血症により命にかかわる低血圧、臓器不全が引き起こされている状態
I度のやけど
皮膚の表皮にとどまる浅いやけど
II度のやけど
皮膚の中間層(真皮)まで損傷したもの
III度のやけど
表皮、真皮、皮下脂肪層のすべてに損傷の及ぶ深いやけど
壊死
部分的に組織や細胞が死んでしまうこと
うっ血
血の流れが悪くなり、静脈に血がたまった状態
潰瘍
皮膚や粘膜の表面がくずれ、深くえぐれている状態
びらん
皮膚や粘膜の表面が浅くえぐれている状態
濾胞
リンパ節や脾臓に存在する、リンパ球が集まる球状の正常構造
脾柱
脾臓の表面を覆う被膜から内部に向かって伸びる結合組織
フィブリン
血液の凝固にかかわる蛋白質。炎症時にも見られ、線維化をおこす
尿細管
腎臓にある組織で、尿のもと(原尿)から必要なものを再吸収し、尿を作る
類洞
肝細胞間に存在する拡張した毛細血管
グリソン鞘
肝臓の血管(門脈、肝動脈)と胆管を束ねる結合組織
気腫
空気やガスが病的にたまった状態
糸球体
腎臓にある組織で、血液をろ過し尿のもと(原尿)を作る
挫傷
打撲により皮下組織や筋肉などが傷ついた状態
噴門部
食道からつながる胃の入り口
マクロファージ
単球が血管外に出たもので、活発な貪食能を持ち、炎症部位で壊死組織や病原体などを処理する
貪食
細胞が不要なものを取り込み、分解する作用
顆粒球
白血球のうち、顆粒を持つ好中球、好酸球、好塩基球を指す
硝子化
組織の変性の一種で、均質に染まる物質に変化すること
変性
細胞、組織の中に異常な物質が、あるいは物質そのものは異常でなくても異常な量、異常な場所に見られること。
挫滅
打撲により非常に強い組織の損傷を伴うけが
石灰化
組織にカルシウムが沈着した状態
無気肺
肺の一部に空気がなくつぶれた状態
肺気腫
肺胞が破壊され、肺に空気がたまり息を吐くのが難しくなる病気
癒着
外傷や炎症の回復過程で、本来は離れている臓器や組織がくっつくこと
限局性
病変が狭い範囲に限られていること
ラングハンス型巨細胞
結核などで見られる、類上皮細胞が融合してできた大型の細胞
乾酪壊死
結核病変の中心に見られる、チーズ状の壊死
陳旧性
古く、現在はあまり変化のない状態
類上皮細胞
大型で上皮細胞に似た、活性化マクロファージ
黄色髄
脂肪が多く、黄色く見える骨髄
脂肪髄
脂肪が多く、血液があまり作られていない骨髄
うっ血水腫
肺内の血流量が増加し、血管外へ漏出し、肺の中に水がたまった状態
出血傾向
血が出やすく止まりにくい状態
肺胞
肺末端の袋状の組織で、毛細血管に取り囲まれ、ガス交換が行われる
過形成
細胞が増加している状態
左方移動
未熟な好中球が末梢血に多数出現した状態。感染症などで見られる。
散在
あちこちに散らばって存在すること
偽膜
粘膜の炎症により表面に形成される膜のようなもの
腫大
腫れて大きくなっている状態
肝門部
胆管や肝臓の血管が肝臓に出入りする場所
多巣性
同一臓器内に複数の同一病変がそれぞれ独立して存在する状態
中国第104部隊
中国軍管区歩兵第一補充隊
裂傷
皮膚が裂けてできた傷
心のう水
心臓を覆っている心外膜と心臓の間にたまった水
腎盂
腎臓の中心にあり、作られた尿が集まり、尿管につながる部分
膿瘍
組織の一部に空洞ができ、膿のたまった状態
硬膜
脳と脊髄を覆う3層の髄膜のうち、最も外側(頭蓋骨側)にある膜
滲出液
炎症の際に血管外へ染み出てくる液
ヘモジデリン
赤血球由来の、鉄を多く含む色素
毛嚢
毛穴の奥の毛根を包んでいる部分
萎縮
臓器や細胞が傷害のために小さくなること
セルトリ細胞
精巣にあり、精子のもとになる細胞に栄養を供給し、精子形成を促す細胞
間質
その臓器の働きを直接担っている細胞群(実質)以外の部分。結合組織など。
黄疸
血液中のビリルビンという色素が増加し、皮膚が黄色くなった状態。溶血や肝臓、胆道の病気で起こる。
赤色髄
活発に血液が作られている、赤く見える骨髄
線維化
炎症が続くことで結合組織が増加し、組織が硬くなること
低形成
細胞が減少し、組織の形成が障害されること
骨髄球
骨髄での成熟過程で見られる白血球の一種
リポフスチン
消耗性色素とも呼ばれる、加齢とともに細胞内に蓄積する色素
季肋部
腹部の、肋骨のすぐ下あたり
腸重積
腸の一部が肛門側の腸にはまり込んで閉塞する状態
腸間膜
腸を包み、腹腔の後壁から吊り下げるようにつながる膜
円柱
尿細管を鋳型とした円柱状の物質で、腎実質の異常がわかる
浮腫
むくみ。皮下組織に水がたまった状態。
表皮突起
表皮が真皮に入り 込んでいる部分
膠原繊維
結合組織の主成分。
赤芽球
赤血球のもとになる細胞。骨髄中に存在する。
梗塞
血管が閉塞し、それより末梢の組織が壊死した状態
紅斑
毛細血管の拡張により皮膚が部分的に赤くなったもの
疣贅
心臓の弁にできた細菌の塊。感染性心内膜炎で見られる。
喉頭蓋
気管の入り口にあり、嚥下時に食物が気管に入らないようふたのように働く
炎症
組織や細胞が傷害を受けた時の反応(赤くなる、熱が出る、腫れる、痛む、など)
結核結節
結核で見られる、中心部に乾酪壊死を伴う肉芽腫
粘膜
口の中、胃や腸などの表面を覆う湿った膜
喀血
肺や気管支からの出血を口から吐くこと
実質
その臓器の働きを直接担っている細胞群
器質化
異物や壊死組織が吸収、処理され線維組織に置き換わること。
肉芽
外傷や炎症の時に増殖する若い結合組織
芽球
骨髄で見られる、血液の細胞の中で最も幼若なもの
瘢痕
やけどや外傷などの治ったあとにできる傷あと。
軟膜
脳と脊髄を覆う3層の髄膜のうち、最も内部にある膜
小葉
肉眼や顕微鏡で見た時の、組織の構造を区切るときに使う呼び方
壊疽
壊死した組織に感染がおこり、腐ったようになったもの
褥瘡
寝たきりなどで皮膚の血流が悪くなり、圧迫される部分にできる皮膚病変。床ずれ。
蜂窩織炎
皮膚とそのすぐ下の組織に菌が入り込み起こる、広がりやすい感染症
肝細胞索
中心静脈から放射状に肝細胞が並んだ構造
膿疱
膿のたまった皮疹
胃底腺
胃粘膜にあり遺産などを産生する組織
黄疸
肝臓や血液の病気で血液中のビリルビンという色素が増加し、皮膚や目などが黄色くなること
細網細胞
リンパ節や脾臓、骨髄などで見られる細胞群で、網目構造を形成する
自己融解
死亡後に、その組織や細胞が自身の酵素により分解される現象
腎皮質
腎臓の外側の色の薄い部分
腎髄質
腎臓の内側の色の濃い部分
縦隔
左右の肺に囲まれた空間
メラニン
皮膚や髪の色に影響する黒い色素
挫滅症候群
四肢の長時間の圧迫により筋肉が傷害されて生じた有害物質が、血流が再開した際に広がり、全身に障害が起こるもの
回腸
小腸の一部。盲腸につながる。
長管骨
四肢の、比較的大きく細長い骨全般
回盲部
小腸から大腸への移行部
頚髄
脊髄の上部、首の部分
中国第111部隊
中国軍管区砲兵補充隊
幽門部
胃の出口
延髄
脳の最下端で脊髄に移る部分
マルピギー小体
脾臓で見られ、脾小節とも呼ばれるリンパ球の集合
塞栓
血液のかたまりや他の固形物、空気などが血液の流れに乗って運ばれ、動脈を塞いだ状態
束状帯
3層に分かれる副腎皮質の中間層。
ネフローゼ
血液中の蛋白質が尿中に大量に漏れ出てしまう病気
リポイド
類脂質とも呼ばれる、脂肪に似た性質をもつ物質
扁平上皮化生
慢性炎症や慢性刺激に対して起こる細胞の分化異常で、円柱上皮が扁平上皮に置き換わったもの。喫煙者でよくみられる。
僧帽弁
心臓の左心房と左心室の間にある弁
プルキンエ細胞
小脳にある大型の神経細胞
コロイド
甲状腺濾胞の中に含まれるゼラチン状の物質
虚脱
つぶれて内部に空気が十分に入らない状態
幼若球
芽球、骨髄球など、通常は末梢血には出現しない未熟な細胞
中国第32038部隊
第二特設警備隊
出血時間
血が止まるまでの時間。通常3~5分以内。
穿孔
穴があくこと
腸腰筋
腰椎と大腿骨を結ぶ筋肉群
膠様変化
ゼラチン用物質の沈着を特徴とする骨髄の変化。低栄養などで見られる。
浸潤
炎症などにより、本来そこにないはずの細胞などが集まってくること
大小不同
大きさが不ぞろいになること
乾酪物質
チーズ状の物質
しぶり腹
便意があるのに排便がないか、少量しか出ず、またすぐに便意を催すこと
ハッサル小体
胸腺で見られる正常構造
プラーク
動脈硬化などで血管壁に見られる塊
多形性
本来であれば同じ形であるはずのものがばらばらの形態を示すこと