No.A093
年齢 | 56 歳 |
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性別 | 女 |
死亡年月日 | 1945/10/05 |
剖検年月日 | 1945/10/05 |
被爆距離 | 700 m |
被爆時地名 | 八丁堀 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
自宅の屋外で被爆しました。
爆風で飛ばされ、崩れた壁で背中と両足に軽度の打撲を負いました。被爆後しばらく意識不明でした。
症状の経過
9月26日ごろより血性の下痢がみられ、死亡日まで続きました。
脱毛や、皮膚の色素沈着がみられました。経過中ずっと軽度の発熱があり、時に高熱でした。
8月29日、白血球が1050/μlと低値なため入院、9月1日には白血球570/μlとさらに低下しました。
9月7日の白血球は1040/μl、9月15日の白血球は2900/μlと徐々に回復傾向を認め、9月25日には3600/μlと正常化していました。
当時の記録からわかること
皮膚に点状出血はありませんでした。
両肺は全体に癒着があり、とくに左肺下葉にうっ血がつよく見られました。左肺下葉の後面には、2x3cm大の出血巣も見られました。
脾臓のリンパ濾胞は見えず、脾柱は明瞭でした。
胃粘膜に点状出血がありました。潰瘍はありませんでした。
左大腿骨の骨髄は上半分は赤色髄で、残りは脂肪髄でした。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺には限局性に肺気腫や無気肺がみられ、肺胞のいくつかでは内腔に好酸性物質を、他の肺胞内には多数の赤血球が見られました。一部で赤血球の中に細菌塊が認められました。
脾臓では成熟したリンパ球はほとんどみられませんでした。
肝臓では小葉辺縁部で、肝細胞の脂肪変性が見られました。
大腸粘膜は大きく壊死しており、多数の白血球が見られました。
リンパ節ではかなり少数の成熟リンパ球が全体に不規則に散在していました。
胸骨の骨髄は高度な過形成を示し、小リンパ球や形質細胞および大小の巨核球や正赤芽球などが見られました。
まとめ
骨髄では、造血細胞の減少がみられますが、赤色髄を示し、過形成性変化を伴う部位もみられます。これらの所見や白血球数の経過からは、放射線による造血細胞の減少から再生してきているところと思われます。脾臓やリンパ節ではリンパ球の産生の低下がみられ、これも放射線の影響と思われます。
左肺では、下葉に出血性の気管支肺炎あるいは出血性梗塞が存在すると思われます。さらに両側とも急性うっ血を伴います。大腸には偽膜性腸炎の所見がみられます。
左肺下葉の出血性気管支肺炎あるいは出血性梗塞が直接的な死因になったと思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24