No.A082
年齢 | 19 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/08/16 |
剖検年月日 | 1945/08/16 |
被爆距離 | 不明 |
被爆時地名 | 不明 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
左顔面と頭部にやけどを負いました。
症状の経過
8月13日に西条の傷痍軍人広島療養所へ入院しました。39.4℃の高熱と下痢、喉の痛み、全身の皮膚の発疹がありました。咽頭痛が強く水も飲めないほどでした。皮膚の出血や脱毛はありませんでした。
当時の記録からわかること
顔面と頚部の右側にやけどがありました。顔、背中、胸部の皮膚はやけどの皮膚のように剥脱していました。頭部の皮膚も同様に剥脱していました。点状出血はありませんでした。
腸管は拡張していました。小腸の粘膜にはかなりの充血が見られました。回腸末端にはびらんがありました。
肺の後面には、5㎜大の隆起した出血点がありました。
肝臓、腎臓には肉眼的な変化はありませんでした。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺の一部には、類上皮細胞とラングハンス型巨細胞の集簇が見られました。別の部分では一部の肺胞壁が壊死しており、細菌塊が認められました。肺門リンパ節には多数の結核結節がみられ、それらのいくつかは乾酪壊死を示していました。
脾臓やリンパ節にリンパ球はほとんど認められませんでした。
食道の上皮は広範囲に壊死物質に置換されていました。咽頭の上皮の一部は壊死性でした。
肋骨の骨髄の大半は脂肪で、著しく細胞密度が低下していました。赤血球産生組織の小さな集まりがみられました。幼若な巨核球と思われる大型細胞も少数みられました。
まとめ
骨髄における造血細胞の高度な減少がみられます。出血傾向はみられませんが、口腔内から咽頭、食道の粘膜には壊死と炎症を認めます。成熟した白血球はみられず、免疫低下状態が存在することが示唆されます。この骨髄の変化は、放射線障害と思われます。
脾臓やリンパ節におけるリンパ球産生の低下も放射線の影響と思われます。
両肺では肉眼的には多巣性に出血巣がみられ、組織標本では乾酪壊死を伴う活動性結核の所見が認められます。また、別の部位には細菌も見られ、細菌性肺炎も合併していたと考えられます。
これらの肺病変が直接的な死因になったと思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24