No.A076
年齢 | 33 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/01 |
剖検年月日 | 1945/09/02 |
被爆距離 | 1100 m |
被爆時地名 | 水主町(警察練習所) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
教師でした。
木造の校舎で講義中、窓の近くで被爆しました。
飛来物で顔と手に裂傷を負いました。
症状の経過
8月24日までは働いていました。
8月25日に食欲不振、脱毛、出血を伴う歯肉炎と咽頭炎が始まりました。
8月27日に発熱があり白血球減少を指摘され、翌日西条の傷痍軍人広島療養所に入院しました。
8月29日から39℃から40℃の発熱がありました。
血液検査では、8月27日:赤血球515万/μl、白血球650/μl、8月29日、赤血球315万/μl、白血球500/μl、8月31日、白血球1100/μlと低値が続きました。
当時の記録からわかること
全身の皮膚に点状出血がありました。頭髪には、ソラマメ大の脱毛がありました。
腹腔には約100mlの血性腹水が見られました。肝臓の表面に出血がありました。
左肺の下葉、とくに後面にはソラマメ大の出血が多数みられました。
脾臓の濾胞は不明瞭でした。
胃には1匹の回虫がいました。幽門部には点状出血が見られました。下部回腸では、エンドウ豆の大きさの瘢痕が認められました。直腸では、出血はありませんが、高度のうっ血を示す領域がありました。
病理組織標本からわかること
肝臓の小葉中心部で類洞の拡張が見られますが、うっ血はありません。
精巣の精細管では、精子が認められます。
甲状腺の濾胞には軽度の大小不同があります。
脾臓のリンパ濾胞は小型でリンパ球は減少しています。類洞は拡張し細網細胞の増殖を伴います。
扁桃腺では扁平上皮の壊死と剥脱が見られます。上皮下のリンパ球は高密度です。
まとめ
骨髄は脂肪髄ですが、一部に細胞密度の高い部分があります。後者では、骨髄球系の未熟細胞が多く、成熟した細胞はみられません。巨核球はほとんどみられず、有核赤血球の集まりは小型です。これらの所見から、放射線による造血細胞の減少があるものの、一部においては再生してきていると思われます。
咽頭、扁桃腺などの壊死は、好中球減少により感染に弱い状態であったためと思われます。
脾臓などにおけるリンパ球産生の低下、頭部の脱毛も放射線の影響と思われます。
肺の出血が直接的な死因になったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24