No.A075
年齢 | 46 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/14 |
剖検年月日 | 1945/09/14 |
被爆距離 | 1100 m |
被爆時地名 | 榎町 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
木造家屋の屋内で被爆しました。
落下物で右腕と頭部に裂傷を、右前腕、大腿部、胸部に挫傷を負いました。
症状の経過
被爆後すぐに、全身倦怠感と食欲不振があり、徐々に強くなりました。
8月28日に紫斑が出現、9月1日に咽頭炎が生じ、次第に悪化して扁桃は壊死しました。
9月1日に脱毛が始まりました。9月1日からは39℃を超える発熱があり、死亡時まで続きました。
9月5日に嘔吐、下痢があり、次第に悪くなりました。
9月5日の血液検査では、白血球200/μlと著明に減少していましたが、9月9日には1670/μl、9月11日には3960/μlと回復傾向でした。
当時の記録からわかること
全身の皮膚に点状出血はありませんでした。前歯の歯肉は鉛色で、壊死がありました。
右肺の中葉には2㎝大の化膿巣がありました。1.5㎝大と2㎝大の2つの空洞もありました。
心のう膜には少数の点状出血が見られました。
胃の粘膜の一部にうっ血がみられ、小さな出血がありました。
舌の根元には約8mm大の潰瘍がありました。喉頭蓋の粘膜下に出血がありました。
大腿骨頭部の骨髄組織は、脂肪髄でした。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺の一部は壊死しており、肺胞腔内には多数の成熟白血球が見られました。細気管支の一部は壊死しており、内腔は滲出物で埋まっていました。胸膜には出血や膿瘍がみられました。
精巣ではほとんど全ての精巣上皮は消失し、まれに精祖細胞の痕跡がみられました。
喉頭蓋の表面は厚い扁平上皮層で被われ、先端近くに表層性の潰瘍がありました。
胸骨、長管骨の骨髄は、ほぼ完全な無形成で、造血細胞は認められませんでした。
まとめ
骨髄では造血細胞の減少がみられますが、肺では成熟した白血球が多くみられ、また血液検査でも白血球数の回復がみられているなど、所見が必ずしも一致しません。放射線による骨髄細胞減少から、徐々に再生してきている段階と思われます。検査した部位以外では骨髄の再生所見がみられた可能性があります。
口腔における出血や壊死は放射線による免疫低下状態がもたらしたと考えられます。精巣における精子低形成も放射線の影響と思われます。
右肺中葉では急性気管支肺炎がみられ、両肺下葉の急性うっ血水腫を伴います。これらの肺病変が直接的な死因になったと思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24