No.A065
年齢 | 31 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/08/28 |
剖検年月日 | 1945/08/28 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(第111砲兵連隊) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
第111砲兵連隊の木造兵舎で被爆しました。兵舎は崩壊し、その下敷きとなりましたが、右肩の傷に耐えて、負傷者の救助にあたりました。
症状の経過
8月21日に軽い発熱、8月25日に歯肉出血、鼻出血、血性の水様便がありました。
8月27日の岡山陸軍病院入院時には体温は40.1℃、脈拍は100/minでした。部分的に脱毛もみられました。顔は蒼白で、歯肉出血、口内炎もみられました。呼吸音は荒く、両腕両脚に多数の膿疱がありました。血性の下痢もありました。
死亡した8月27日の白血球数は800/μlと減少していました。
当時の記録からわかること
肺や胸膜の表面には多数の出血があり、うっ血が強く、肺水腫の状態でした。
食道や胃、小腸、大腸には多数の点状出血が、大腸では潰瘍と血液の漏出も見られました。
扁桃腺は壊死しており、壊死物質がかさぶたとなっていました。潰瘍性の口内炎がありました。
全身のリンパ節は腫大しており、それらのうちいくつかは出血していました。
両腕、両足に散在性の出血と多数の膿疱が見られました。
病理組織標本からわかること
肝臓は中心静脈周囲の肝細胞の壊死・脱落が見られます。
腎臓の糸球体や尿細管に少数の細菌塊が見られます。
リンパ節ではリンパ濾胞が消失しており、成熟したリンパ球はかなり少なく、形質細胞が多く見られます。
まとめ
骨髄の組織標本は残っていませんが、血小板減少による出血傾向と、好中球減少による免疫力低下が疑われ、おそらく造血細胞の減少が著しいものと推定されます。特に口の中の粘膜から食道にかけては細菌感染による急性炎症が強く、一部は壊死しています。皮膚でも多数の膿疱が形成されています。
肺では気管支肺炎がみられますが、好中球浸潤が乏しく炎症に対する防御反応が低いことが分かります。
肺や腎臓などに菌の塊が見られることより、血液の中でも細菌が増えていたと推測され、そのために様々な臓器が障害を受けた(敗血症)ことが直接的な死因になったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31