No.A062
年齢 | 21 歳 |
---|---|
性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/10/02 |
剖検年月日 | 1945/10/02 |
被爆距離 | 1500 m |
被爆時地名 | 横川町 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
被爆した時、上半身は裸であり、右上腕、背中、腹部にやけどを負いました。
症状の経過
8月8日に救護所に収容され、8月25日に宇品陸軍病院に移されました。その時、体温は正常でしたがやけどの部位に感染をおこしており、膿が出ていました。
9月10日から38℃の発熱があり、食欲不振が続きました。徐々に痩せてきて、腰に褥瘡が出現し、足背がむくんできました。
9月30日の血液検査では赤血球215万/μlと低値、白血球は18,500/μlと基準値と比べかなり増加していました。
当時の記録からわかること
栄養状態は大変悪く、体重は30kgしかありませんでした。
III度のやけどが、背中、右上肢、腹部にみられました。これらの一部は潰瘍になっていました。胸部と恥骨上部に褥瘡がありました。
両肺とも無気肺状で、いくつかの出血を認めました。
胃の幽門部に出血性の浅い潰瘍がありました。腸管の粘膜全体に点状出血が多数散在していました。回腸と大腸には、慢性出血性腸炎の所見が認められました。
右大腿骨上半分の骨髄は赤色で、細胞成分がかなり多いと思われました。
病理組織標本からわかること
肝臓には軽度の肝細胞萎縮、小葉中心静脈の壁の肥厚が認められます。
腎臓の糸球体に大きな異常はありません。腎髄質に出血が見られます。
精巣ではセルトリ細胞が多く、精細胞は減少しています。
胃には軽度の萎縮性胃炎があり、一部の粘膜表層部が壊死しています。
皮膚の毛嚢の萎縮は認められません。
まとめ
肺では小範囲の肺胞性肺炎が散在性にみられ、肝には慢性うっ血がみられます。
精子の形成不全は放射線の影響と考えられます。
記録によれば、骨髄での造血細胞の減少はなく、脾臓でもリンパ濾胞はみられ、造血系は放射線の影響からは回復してきているようです。実際に白血球数はやけどの部位の感染ためかむしろ増加しています。
一方、骨髄障害はないのに赤血球が少ないことから出血による貧血の存在が疑われます。胃や腸の標本は残っていないため確認はできませんが、記録にある出血性潰瘍はかなり重症であったのかもしれません。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31