No.A057
年齢 | 36 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/02 |
剖検年月日 | 1945/09/02 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 幟町(幟町国民学校) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
屋内にいたか、屋外にいたかはわかりません。
やけどはありませんでしたが、飛んできたガラスの破片で裂傷を負いました。
症状の経過
被爆後数日、はきけと嘔吐、中等度の水様下痢がありました。
8月20日、脱毛と点状出血、咽頭炎、出血を伴う口内炎が出現しました。
8月26日に宇品陸軍病院に入院した際、体温は38.3℃であり、以後も40℃の高熱が死亡まで続きました。頭痛、筋肉痛、呼吸困難、胸痛がありました。
8月27日の血液検査では、赤血球数390万/μlと軽度低値、白血球数は600/μlで著明な低値でした。血沈1時間値が57mmと亢進していました。
当時の記録からわかること
全身に様々な大きさの点状出血がありました。右大腿に2cm大の潰瘍がありました。
右肺では、上葉に大きな出血巣があり、浮腫で囲まれていました。中葉にも同様の出血がありました。左肺では、上葉に右肺よりもさらに広範囲の出血があり、その近くに多くの小さな出血巣がありました。
胃粘膜には多数の小さな点状出血と多数の壊死巣がみられました。小腸および大腸の粘膜にも点状出血が広く見られました。
扁桃腺は両側とも壊死していました。
病理組織標本からわかること
肝の小葉中心部にうっ血と軽度の肝細胞変性が認められます。
腎臓の糸球体や尿細管に大きな異常は認められません。髄質の血管にうっ血が見られます。
脾臓のリンパ濾胞は萎縮しています。脾髄は高度にうっ血しています。
リンパ節にリンパ濾胞はありません。
まとめ
骨髄における造血組織の萎縮がみられ、血小板の減少による出血傾向のため皮膚や腸管の点状出血、両肺に斑状の出血が認められます。また、免疫力低下状態を示す所見として、口内の炎症や扁桃腺の壊死が認められます。これらは放射線の影響と考えられます。
その他に放射線の影響としては、皮膚における毛嚢の萎縮による脱毛があげられます。
両肺では出血とともに、細気管支の一部で急性炎症の所見がみられ、急性気管支肺炎が存在すると考えられます。肺の出血病変の周囲には急性うっ血水腫を伴っています。両肺における出血、気管支肺炎などが直接的な死因になったと思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28