No.A056
年齢 | 25 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/04 |
剖検年月日 | 1945/09/04 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(西練兵場付近) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中国第104部隊の軍人でした。
屋内で被爆し、やけどやけがはありませんでした。
症状の経過
8月20日に脱毛に気づきました。
8月28日に出血を伴う歯肉炎が出現し、29日には皮膚の点状出血が認められました。
8月30日には咽頭炎を生じ、38.4℃の発熱がありました。
8月28日に1日に7~8回の水様性下痢が始まり、9月2日には下痢は血性となりました。
当時の記録からわかること
皮膚では、とくに下半身に点状出血が多数認められました。多数の小さな傷が、前胸部に散在していました。
腹腔内には約150mlの血性腹水がたまっていました。
左肺は体積が大きく、上葉に結核巣と思われるいくつかの石灰化巣が見られました。
胃に1匹、回腸に1匹の回虫がいました。胃粘膜には広範囲に出血や点状出血が見られました。小腸にはいくつかの浅いびらんがありました。大腸にはこぶし大の血腫がみられ、周辺には多数の小さな浅い潰瘍が形成されていました。出血も見られました。直腸では、多数の粘膜下出血がありました。
病理組織標本からわかること
胃の粘膜固有層に軽度の慢性炎症細胞の浸潤が見られます。
腎臓の尿細管内腔が軽度拡張しています。腎髄質の一部に出血が見られます。
脾臓ではリンパ濾胞の萎縮と細網細胞の増殖が認められます。
リンパ節ではリンパ濾胞がみられます。リンパ球は軽度減少しています。
皮膚では表皮の増殖、真皮の膠原線維の増生が見られます。毛嚢が萎縮しています。
まとめ
放射線の影響と思われる骨髄における造血組織の萎縮がみられます。巨核球、血小板の減少のため出血しやすい状態と思われ、皮膚や胃腸管などに点状出血がみられます。また、好中球減少のため免疫力低下状態も存在したと思われ、歯肉炎や咽頭炎、腸管には限局性の出血・壊死が認められ、約150mlの血性腹水を伴います。
肺には、急性うっ血水腫がみられますが、気管支肺炎はみられません。左肺上葉には陳旧性結核巣が存在しますが、活動性結核の所見はありません。
直接死因として指摘できる明確な異常はありませんが、出血性の下痢の影響が大きいと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28