No.A051
年齢 | 33 歳 |
---|---|
性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/04 |
剖検年月日 | 1945/09/04 |
被爆距離 | 1100 m |
被爆時地名 | 水主町(警察練習所) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
警察官でした。
木造2階建の屋内に座っていた時に被爆しました。建物は倒壊し、その下敷きになりました。
前腕、臀部、胸部、右顔面に裂傷を負いました。
症状の経過
被爆当日からはきけがあり、10日まで続きました。
8月25日に髪の毛が抜け始め、8月29日から高熱が続きました。9月1日には歯肉炎と咽頭炎が出現しました。
8月26日の血液検査では赤血球294万/μl、白血球1950/μlとやや低値でした。
8月31日には赤血球302万/μlと著変ありませんでしたが、白血球数は900/μlとさらに減少、9月4日には白血球数は350/μlにまで減少していました。
当時の記録からわかること
上腕と頚部に点状出血が多数見られました。脱毛は円形で、限局性にみられました。
両側肺はかなりうっ血していました。血液の漏出も見られました。右肺上葉には大きな出血がありました。
脾臓の脾柱は明瞭でしたが、リンパ濾胞はみられませんでした。
肝臓はうっ血していました。
胃粘膜には多数の小さな出血が見られました。空腸や直腸にも点状出血が多数みられました。
喉頭蓋の内側表面に点状出血が見られました。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺はうっ血が強く、一部は壊死していました。
脾臓には一部に成熟リンパ球に囲まれる部分がありますが、他ではリンパ球は減少していました。
胃と腸は明らかに浮腫性であり、粘膜に潰瘍はありませんでした。
扁桃腺には大きな壊死領域があり、多くの細菌が壊死物質内に含まれていました。
骨髄の造血細胞は顕著に減少していました。胸骨では骨髄球系細胞がやや増殖していましたが、成熟好中球は稀にしか見られませんでした。巨核球も少数みられました。
まとめ
骨髄では造血組織が減少しており、血小板減少による点状出血が、胃や腸管の粘膜にみられます。扁桃腺の壊死や歯肉炎は感染に弱い状態であることのあらわれです。この骨髄の変化や頭髪の脱毛は、放射線障害と思われます。
脾臓やリンパ節でのリンパ球産生の低下は軽度と思われます。
両肺には急性うっ血水腫がみられ、右肺上葉には限局性に出血巣を認めます。
白血球の減少や高熱が続いていたことなどから、敗血症などの重篤な感染症が直接の死因となった可能性が高いと考えます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24