No.A050
年齢 | 29 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/04 |
剖検年月日 | 1945/09/04 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(西練兵場付近) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中国第104部隊の軍人でした。
屋内で被爆し、飛んできたガラスの破片で右腕と頬に裂傷を負いました。やけどはありませんでした。
症状の経過
8月16日に脱毛と咽頭炎が出現しました。
8月29日に出血を伴う口内炎がみられ、30日から皮膚の点状出血と発熱が始まりました。
9月3日には体温は40.6℃に達しました。
当時の記録からわかること
栄養状態は良好でした。
全身に5mm大までの点状出血が見られました。右上腕には10cm大の傷があり、その表面は化膿し、肉芽を伴っていました。
腹膜には出血が散在していました。
小腸全体に少数の粘膜下出血が見られました。回盲部に潰瘍がありました。
両腎とも同様に、表面に多数の出血が見られました。腎盂にも軽度の出血が見られました。
扁桃腺はサクランボ大に腫れていましたが、潰瘍はありませんでした。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
大腸には大きな潰瘍があり、その壊死した底部には細菌の塊が見られました。
肋骨の骨髄は著しく低形成であり、大半は脂肪細胞でした。まれに成熟した好酸球や肥満細胞が見られました。一部では多数の細く長い細菌が見られ、その周囲は壊死していました。白血球の反応はなく、まれに骨髄球や成熟した赤血球が見られました。赤血球貪食像が全体にみられ、一部では高度でした。
まとめ
骨髄における造血組織の萎縮が高度で、再生性変化もみられません。放射線の影響と思われますが、貪食像も見られており、組織球による血球貪食のために血球減少がさらに悪化していた可能性があります。血小板の減少による出血傾向として、全身皮膚や腹膜における点状出血がみられます。好中球減少による免疫力低下状のため右上腕などの皮膚に外傷後の多発性の潰瘍がみられ、また大腸にも細菌感染を伴う潰瘍が認められます。骨髄でも細菌が検出されており、敗血症の状態です。
その他の臓器に顕著な病変はなく直接の死因はわかりませんが、敗血症性ショックの可能性が高いと考えます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28