No.A049
年齢 | 31 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/03 |
剖検年月日 | 1945/09/03 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(中国第104部隊兵舎) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中国第104部隊の軍人であり、兵舎内2階で被爆しました。
飛んできたガラス片により右腕と背中に裂傷を負いましたが軽傷であり、そのまま勤務を続けていました。
症状の経過
8月10日に前腕に点状出血が出現しました。8月17日に脱毛に気付きました。
8月27日宇品陸軍病院へ入院。
8月29日に出血を伴う歯肉の潰瘍、下痢を生じ、39.5℃から40.3℃の発熱が続きました。
日付は不明ですが、血液検査では赤血球387万/μl、白血球数は2480/μlといずれも軽度低値でした。
当時の記録からわかること
前頭部、顔面、腰部に点状出血がありました。
右肺は全体的に暗赤色で中葉、下葉に硬い硬結がありました。左肺には出血はありませんでしたが、かなりうっ血していました。
胃粘膜には、針頭大までの粘膜下出血がありました。小腸には2匹の回虫がいました。上行結腸の粘膜に表層性の潰瘍が散在してみられました。虫垂の粘膜には小さな点状出血がありました。横行結腸では、小さな粘膜下出血が見られ、S状結腸にむけて多くなり、出血性腸炎にみえました。
病理組織標本からわかること
残っている標本は脳のみで、大きな異常は認められません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺には大きな出血巣と小さな壊死巣が見られました。細菌塊はみられませんでした。
リンパ節では大型のリンパ球が目立ちました。少数の成熟した小リンパ球も見られました。
骨髄は脂肪組織が多く低形成でした。まれに骨髄球や小型の巨核球が見られました。リンパ球と思われる小型細胞や、形質細胞と思われるやや大型の細胞が認められました。標本上に顆粒球はみられませんでした。
まとめ
骨髄では造血組織の萎縮があり、血小板の減少による出血傾向によって、皮膚、胸膜、胃や大腸の粘膜などに点状出血がみられます。好中球減少により感染しやすい状態であったと思われ、出血を伴う口内炎の他に、虫垂、盲腸からS状結腸まで、出血を伴う潰瘍がみられ、出血性腸炎が疑われています。
また、脾臓とリンパ節では、リンパ球産生の低下がみられます。これらは、放射線による影響と考えられます。
右肺では中・下葉に出血を伴う硬結がみられ、気管支肺炎が存在すると思われます。
左肺にはうっ血水腫がみられます。これらの肺病変による呼吸困難が直接の死因となったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28