No.A044
年齢 | 28 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/01 |
剖検年月日 | 1945/09/01 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 水主町(中島国民学校) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中島国民学校で疎開作業中に被爆した軍人です。
屋外にいて、爆風で川まで飛ばされました。いくつかの外傷を受けましたが、やけどは負いませんでした。
症状の経過
8月16日、脱毛がひどく、8月25日より全身の点状出血、歯肉出血が出現しました。ひどい口内炎と咽頭炎と食欲不振がありました。
8月28日、頭痛と発熱のため宇品陸軍病院に入院しました。発熱は40.0℃まで上昇しました。
入院時の血液検査では、赤血球283万/μl、白血球300/μlといずれも著明に低値、出血時間は15分と明らかに延長していました。
当時の記録からわかること
皮膚には広く、5mmから1cm大の出血がみられました。背中には約10個の、上腕の後面には2個の潰瘍がありました。頭髪の半分は消失し、頭頂部の毛は完全になくなっていました。
右肺の上葉の上半分と中葉の中央部には境界のはっきりとした出血巣がありました。左肺にも上葉に同様の出血巣がみられました。心外膜には小さな出血がまだらにみられました。
歯肉は全体的に暗赤色で壊死性でした。扁桃腺は両側とも親指大に腫れて壊死していました。喉の奥に出たばかりと思われる出血があり、浅い潰瘍もありました。
病理組織標本からわかること
この方は気管と歯肉、脳の標本しか残っていません。
まとめ
血液検査で血球減少が見られることから、骨髄における造血組織の萎縮が高度であると推察されます。当時の記録には、巨核球は認められず、赤血球の産生組織もわずかとあります。血小板減少による出血傾向のため点状出血や斑状出血が広い範囲で認められ、とくに歯肉では出血とともに壊死が高度であったようです。
また扁桃腺などにも壊死あるいは潰瘍がみられ、感染に弱い状態であったと思われます。これは放射線の影響による好中球減少が原因と考えられます。
肺では、肉眼的に出血巣の記載がありますが組織所見の記載がなく、出血のみなのか出血性梗塞なのか急性うっ血水腫なのかは判断できませんが、肺病変が直接死因になった可能性が高いと考えます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31