No.A033
年齢 | 22 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/08 |
剖検年月日 | 1945/09/08 |
被爆距離 | 800 m |
被爆時地名 | 猫屋町(憲兵隊) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
憲兵隊の一員であり、憲兵隊駐屯地のコンクリートの建物の3階で被爆しました。
建物は爆風で倒壊し、崩れた壁や破片で多くの裂傷を受けました。やけどはありませんでした。
症状の経過
被爆後大野陸軍病院に入院しましたが、症状は軽くすぐに退院しました。
8月15日に重度の下痢がありました。
9月3日には点状出血を生じ、9月4日宇品陸軍病院に入院しました。
9月5日高度な口内炎と壊死性の咽頭炎を生じました。40℃の発熱があり、下痢も続いていました。
9月6日の血液検査では、赤血球340万/μl、白血球1500/μlと低値でした。
当時の記録からわかること
背中の皮膚に少数の点状出血がありました。
両肺は著しい肺水腫の状態であり、特に右に強く出血がありました。
胃や大腸の粘膜に点状出血が見られました。S状結腸と直腸には中等度の浮腫がありました。
歯肉は壊死しており出血がありました。扁桃腺や喉頭蓋には壊疸がありました。
肝臓は著しく腫大しており、部分的に脂肪化していました。
病理組織標本からわかること
この方の標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺は浮腫性で出血を伴う癒着がありました。肺実質には壊死巣があり、細菌塊がまじっていました。
精巣の精細管腔内にもセルトリ細胞内にも成熟した精子はみられませんでした。
長管骨の骨髄は大半が脂肪組織でした。骨髄系細胞、特に成熟した多形核白血球や桿状球は見られませんでした。赤芽球の小さな集まりが見られました。
まとめ
骨髄では、造血組織の萎縮がみられ、巨核球・血小板の減少による出血しやすい状態があり、心外膜、胃、大腸、歯肉などに点状出血がみられました。免疫力低下状態であったと思われ、扁桃腺などには炎症と壊死性変化を認めます。骨髄の変化は放射線の影響と思われますが、骨髄では再生の所見が一部でみられます。
精巣における精子形成の低下も放射線の影響と考えます。
肺では、とくに右肺に出血を伴う急性気管支肺炎がみられ、広く急性うっ血水腫を伴っています。この肺の炎症とうっ血水腫が直接の死因になったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28