No.A031
年齢 | 83 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/16 |
剖検年月日 | 1945/09/17 |
被爆距離 | 1800 m |
被爆時地名 | 不明 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
屋内で被爆しました。夏の着物を着用していました。
家が倒壊し、足と横腹に挫傷とすり傷を負いました。やけどはありませんでした。
症状の経過
9月はじめに、しぶり腹を伴って血性下痢が頻回にありました。発熱はなく、点状出血や脱毛もありませんでした。咳とのどの痛みがありました。
当時の記録からわかること
栄養状態は不良でした。頚部と腹部にいくつかの出血斑がみられました。
左右の肺尖部は癒着していました。左肺尖部には石灰化が見られ、上葉は無気肺状でした。右肺は空気の量が少なく、上葉にはごく小さなものから3cmまでの硬結がありました。
大腸には血性の粘液物質があり、粘膜は暗赤色で剥脱しやすい状態でした。
舌に小出血がありました。咽頭、食道、喉頭、気管に大きな異常はありませんでした。
病理組織標本からわかること
大動脈の内膜は中等度に肥厚し、プラークの形成が見られます。
肝臓では小葉中心性の急性うっ血と軽度の肝細胞変性が見られます。
精巣では精子の形成がみられます。
脾臓のリンパ濾胞はみられます。類洞の拡張はありません。
扁桃腺の上皮に壊死はありません。上皮下のリンパ球は保たれています。
まとめ
骨髄の標本は残っていないため確認できませんが、腹膜の点状出血などがみられることから、血小板の減少があると推測されます。しかし明らかな感染巣はなく、大腸の病変にも多核白血球をみることから、骨髄は放射線の影響からは回復しているものと思われます。
一方、大腸では、粘膜に細菌や多形核白血球の浸潤を伴う壊死性病変がみられ、血性下痢の原因と思われます。大動脈の動脈硬化症、腎の細動脈硬化性腎硬化症は加齢性の変化とみなされます。両側肺尖部には陳旧性結核を認めます。
死因となるような大きな病変は標本や記録からは指摘できません。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24