No.A003
年齢 | 21 歳 |
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性別 | 女 |
死亡年月日 | 1945/09/03 |
剖検年月日 | 1945/09/03 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 不明 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
家の玄関前で被爆し下敷きとなりました。やけどやけがはありませんでした。
以後も元気に働いていました。
症状の経過
8月19日に、脱毛と点状出血、潰瘍を伴う咽頭炎が出現しました。点状出血は大腿部から次第に拡がりました。
8月27日に38.7℃の発熱があり、以後も高熱が続き、死亡前には40.5℃に達しました。
8月28日の血液検査では赤血球230万/μl、白血球230/μlと著しい低値、出血時間は18分と明らかに延長していました。
9月3日の検査でも赤血球212万/μl、白血球250/μlと低値が続き、血沈は1時間値134mmと著明に亢進していました。
当時の記録からわかること
皮膚全体に小出血が散在していました。左大腿に一つ、右足膝下に二つの2cm大の潰瘍がありました。
右肺上葉には大量の出血部位がありました。肺尖部には周囲に出血を伴う粟粒大の結節がありました。
胃や十二指腸の粘膜には多数の点状出血がみられました。回腸に1匹の回虫がいました。大腸粘膜には散在性に点状出血が見られ、虫垂には少数の潰瘍がありました。
腎臓には左右合わせて3カ所の被膜下出血と、実質に多数の小出血が見られました。
子宮内膜は肥厚しており、底部では出血性でした。
扁桃腺には出血や壊死がみられ、一部は組織が崩壊していました。
病理組織標本からわかること
卵巣では一次卵胞、閉鎖卵胞、白体がみられ、大きな異常はありません。
脾臓ではリンパ濾胞が萎縮しており、類洞の細網細胞の増生とうっ血が見られます。
リンパ節の濾胞は萎縮しています。
皮膚は毛嚢が萎縮しており、真皮は線維化しています。
まとめ
放射線の影響と思われる骨髄の造血組織の萎縮がみられ、巨核球、血小板の減少により出血が起きやすくなり、皮膚や胃粘膜の点状出血、腎臓や子宮内膜などに出血巣がみられます。好中球減少により感染しやすい状態と思われ、咽頭炎や扁桃腺の壊死、消化管の潰瘍などがみられます。
脾やリンパ節でのリンパ球産生の低下も放射線の影響と思われます。
右肺では、出血を伴う急性気管支肺炎がみられ、両肺下葉には急性うっ血水腫を伴います。右肺肺尖部には、陳旧性結核を示唆する石灰化結節がみられます。
右肺の急性気管支肺炎と両肺の急性うっ血水腫が直接的な死因と考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28