No.A022
年齢 | 23 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/05 |
剖検年月日 | 1945/09/05 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(中国第104部隊) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
軍人でした。屋内にいて、巻きゲートルを巻く作業をしている時に被爆しました。
症状の経過
8月11日の入院時、顔の左側と後頭部にII度のやけどを負っていました。
8月16日に、左耳に痛みを生じ、耳漏がみられました。
8月20日に脱毛が始まりました。
8月28日、粘液状血性の下痢が出現し、連日10回以上の下痢が続きました。体温は約39℃に上昇しました。検査では、高度の貧血がみられました。
当時の記録からわかること
栄養状態は良好でした。頭部の左側の毛は、帽子を被っていた部位を除いて、完全に脱毛していました。歯肉は蒼白で、汚い茶色の膜で被われていました。扁桃腺は壊死していました。
左肺上葉には結核巣と思われる0.5cm大の結節があり、石灰化を伴っていました。
右肺の胸膜、心臓の左心室、腎盂粘膜、膀胱粘膜などに点状出血が見られました。
食道や胃、大腸の粘膜は蒼白で点状出血が見られました。小腸に1匹の回虫がいました。小腸に小さな潰瘍が多数あり、その周辺組織は出血性でした。直腸では多数の浅い潰瘍が地図状にみられました。
病理組織標本からわかること
肺には限局性に肺内への細胞浸潤が見られ、軽度の気管支肺炎の所見です。
肝臓では小葉中心に軽度のうっ血が認められます。
精巣では精子形成が低下しています。
胸腺ではハッサル小体の形成が見られません。
まとめ
骨髄は過形成ですが、骨髄球や後骨髄球などの未熟な細胞が多く、成熟する過程に障害があると思われます。巨核球は少数で有核赤血球も少数です。これらの変化は放射線の影響と思われます。出血傾向による点状出血が、消化管粘膜など広い範囲にみられます。免疫力低下状態を示唆する所見としては、扁桃腺の壊死性変化や、大腸・直腸に散在性にみるびらん性炎症などがあげられます。
腎臓には大型の出血を伴う壊死巣がみられ、梗塞とみなされます。
精巣における精子形成の減少や頭皮における脱毛も放射線の影響と思われます。
腎臓の梗塞や重症の下痢が直接的な死因となったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/10/24