No.A020
年齢 | 27 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/06 |
剖検年月日 | 1945/09/06 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(中国第104部隊) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
中国第104部隊の軍人でした。
屋内にいたのかどうかはわかりませんが、飛来した破片により小さな傷を負いました。やけどはありませんでした。
症状の経過
8月6日、7日に軽いはきけと嘔吐がありましたが労働を続けていました。
8月17日に脱毛、歯肉出血が出現しました。
8月27日、全身の点状出血と40℃の発熱のため宇品陸軍病院へ入院しました。全身倦怠感、食欲不振、咽頭炎、壊死性口内炎がありました。
8月27日の血液検査では、赤血球209万/μl、白血球900/μlと著明な低値でした。
当時の記録からわかること
皮膚には多数の出血が見られました。四肢には多数の裂傷があり、その下には皮下出血がありました。両耳の下部に、浅いびらんと浮腫がみられました。
心臓の心外膜には多くの点状出血やエンドウ豆大の出血がありました。
胃や腸の粘膜には、小さな出血が多数みられました。十二指腸には1匹の回虫がいました。
右腎の周囲の組織に出血がありました。腎盂と尿管の上部には血の塊が見られました。
脳はかなりむくんでおり、広範囲に出血していました。延髄から頚髄にかけての軟膜下に顕著な出血が見られました。
病理組織標本からわかること
標本は残っていません。以下は当時の記録にある組織所見です。
腎臓の一部の尿細管には多数の赤血球が認められました。糸球体の一部では、被膜下に赤血球が見られました。腎盂粘膜から少し離れた部位に大きな出血がありました。
リンパ節に小リンパ球の集団はかなり少なく、胚中心はみられませんでした。
肋骨の骨髄はかなり低形成でした。胸骨ではかなり骨髄球と赤血球が多く見られました。赤芽球はどの標本にも多く、奇怪な核をもつ細胞もみられました。巨核球も少数でした。骨髄再生の初期と思われる像ですが、成熟した白血球が見られるまでには進んでいませんでした。
まとめ
骨髄における造血組織の萎縮がみられ、血小板の減少による出血傾向が顕著に認められます。点状出血が全身皮膚や歯肉、胃や大腸にみられ、また、頭蓋内でも大脳から頚髄まで、軟膜下に出血を認めます。好中球減少により感染しやすい状態にあったと考えられ、壊死性口内炎や皮膚の多数のびらんがみられます。これらの骨髄の変化は、放射線の影響と思われますが、多くの赤芽球をみるなど、骨髄での造血再生の初期像とみなされる変化を伴います。
直接死因としては、頭蓋内を含む全身における出血の影響が大きいと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/02/28