No.A015
年齢 | 不明 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/08/31 |
剖検年月日 | 1945/08/31 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 基町(西練兵場) |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
屋内で被爆しました。
閃光によりやけどを負いました。瓦屋根の建物の下敷きになりました。
症状の経過
8月21日より発熱がみられました。脱毛もありました。
8月27日に宇品陸軍病院へ入院した際、発熱、出血を伴う歯肉炎、食欲不振と頭痛がありました。
8月30日、体温は40.0℃に上昇し、咳と血性痰が出現しました。8月30日の血液検査では、赤血球236万/μl、白血球300/μlといずれも著明な低値でした。
当時の記録からわかること
頭髪の脱毛が顕著でした。腕、両下肢の前面にもあざがありました。左足の側面には壊死と出血がみられました。後頭部には3個の潰瘍がありました。歯肉の出血が顕著でした。
心のうには血性の心のう水がたまっていました。心外膜には多くの点状出血がありました。
両側の肺には様々な大きさの出血がありました。右肺中葉には、梗塞と思われる出血巣が見られました。
胃粘膜に多数の点状出血がありました。
病理組織標本からわかること
残っている標本は脳と眼球のみで、これらに大きな異常は認めません。以下は当時の記録にある組織所見です。
肺は大量の滲出液あるいは漏出した血液のため、肺胞が見えにくくなっていました。好中球は見られませんでした。細菌の塊が滲出液の中にみられました。
精巣には精子細胞や幼若な細胞はほとんどありませんでした。
肋骨の骨髄では、細胞の主体はリンパ球であり、少数の好酸球をのぞいて、顆粒球系細胞は見られませんでした。巨核球も見られませんでした。赤血球産生組織はごく少数ですが認められました。
まとめ
残っている標本は脳と眼球のみで診断にはつながらないため、当時の記録から推察しました。
骨髄は脂肪髄で、造血組織は高度に萎縮していると思われます。血小板の減少により出血しやすくなっており、歯肉や胸膜に点状出血がみられ、上下肢には斑状出血が認められます。皮膚の出血を伴う壊死巣や口腔内の壊死巣の存在からは、好中球減少により感染に弱くなっていることが推察されます。これらは放射線の影響と思われます。
肺には出血性梗塞が存在するとの記載があり、これが直接の死因になったと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31