No.A014
年齢 | 31 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/11/15 |
剖検年月日 | 1945/11/15 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 不明 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
兵舎で被爆しました。
後頭部に大きな傷と上肢および左足背に裂傷を負いました。
症状の経過
8月下旬に頭髪の脱毛、歯肉痛、高熱が始まり、9月5日に入院しました。体温は38.5℃で、脈拍は102/分でした。
栄養状態は不良で、著しい歯肉出血がみられました。口唇には潰瘍があり、痛みのため食事をとれませんでした。
9月15日、熱は続き、咳も出はじめました。9月18日には咳が悪化、膿状の痰が見られました。
10月3日痰の検査で球菌を認めました。
11月14日に約100mlの喀血があり11月15日死亡しました。
当時の記録からわかること
著しくやせていました。後頭部や両腕に治癒した傷の痕がありました。
肺には右上葉のおよそ半分を占めるに大きな空洞を認めました。内腔には肺実質と思われる大きな暗赤色の塊が認められました。同様の、より小型の空洞がいくつかみられました。
空腸には2匹の回虫がいましたが、粘膜の病変はありませんでした。
肋骨、胸骨、椎骨の中には、豊富な灰赤色の骨髄(赤色髄)がみられました。
病理組織標本からわかること
標本は残っていないため、以下は当時の記録にある組織所見です。
右肺上葉の大きな空洞の内側には壊死物質がありました。外側は密な結合組織の厚い帯からなり、器質化肺炎の所見でした。肺胞の多くは、小リンパ球、形質細胞とまれに成熟白血球を含む肉芽組織で占められていました。空洞からずっと離れた部位では、肺胞の壊死と多数の白血球の塊に混在して細菌の塊が認められました。
骨髄では細胞密度は高く、幼若な骨髄球系細胞が主体で、成熟した白血球は減少していました。まれに芽球もみられ、核分裂像も認められました。多くの巨核球や赤血球産生組織もみられました。
まとめ
記録によれば、右肺上葉に大型の空洞形成があり、なかに壊死を示す肺実質を認め、周囲の肺には広く器質化肺炎をみるとされています。炎症が長く続いたことが推定されます。結核である可能性もありますが、陳旧性結核の存在を示唆する記載がないことから、否定的と思われます。
放射線の影響としては、骨髄における成熟抑制があり、炎症部位への成熟白血球の浸潤をみないことから、肺炎の増悪の原因になったと考えられます。ただし骨髄の細胞数は増加しており、巨核球も多数見られたことより、亡くなる頃には骨髄は回復傾向であったと思われます。
その他に精子低形成や毛嚢の萎縮による脱毛も放射線の影響と思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31