No.A112
年齢 | 39 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/09/23 |
剖検年月日 | 1945/09/23 |
被爆距離 | 1000 m |
被爆時地名 | 不明 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
屋内で被爆しました。
シャツとズボンを着用していましたが、右腕、両足にやけどと右大腿部に挫傷を負いました。
症状の経過
8月13日に宇品陸軍病院に入院しました。食欲不振が続き、全身倦怠感に苦しみました。
8月25日に脱毛が出現しました。
8月27日から下痢が始まり、9月18日まで続きました。下痢は1日に数回あり、多い時は15回となり、血性でした。
9月13日の血液検査では白血球が9,100/μlと軽度の高値でしたが、9月19日には白血球が38,200/μlと著しく増加していました。
当時の記録からわかること
栄養状態はやや不良でした。
右上腕と両足裏に約4㎝大のやけどがありました。頭髪はほとんど脱毛していました。皮膚には軽度の黄疸がありましたが、点状出血はありませんでした。
胸膜には多くの点状出血がありました。両肺とも中等度にうっ血していました。
大腸では全長にわたって、表層性の潰瘍性変化がありました。
右大腿骨上半分の骨髄は赤色髄でした。
門脈近くのリンパ節は灰色で軟かく、腫大していました。
病理組織標本からわかること
肝臓では小葉中心性の変性・壊死が認められます。
精巣では精子が軽度低形成です。
脾臓のリンパ濾胞は高度に萎縮しています。
リンパ節のリンパ濾胞は高度に萎縮しています。
皮膚の毛嚢は高度に萎縮しています。表皮も萎縮しており、真皮は線維化しています。
![](img/17-1.png)
軽度のうっ血水腫が見られます。一部の肺胞内へは好中球が浸潤しています。
![](img/17-2.png)
粘膜には壊死性変化があり、潰瘍を形成しています。
![](img/17-3.png)
造血細胞は高度に低形成です。
まとめ
当時の記録には、大腸に全長にわたって表層性の潰瘍性変化があったと記載されています。標本では、粘膜の壊死性変化を確認できますが、これは放射線の影響と推測されます。
骨髄では、骨髄球系細胞の成熟障害や巨核球の減少がみられますが、これも放射線の影響と思われます。
その他、脾臓およびリンパ節でのリンパ球産生の低下、精巣での精子減少、皮膚の毛嚢の萎縮も放射線による影響と考えます。
肝の小葉中心性変性と脂肪変性は循環不全の存在を示唆します。急性気管支肺炎は軽度です。
直接死因としては、大腸の潰瘍による下痢による消耗の影響が大きいと考えられます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31