No.A102
年齢 | 58 歳 |
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性別 | 男 |
死亡年月日 | 1945/08/29 |
剖検年月日 | 1945/08/30 |
被爆距離 | 1200 m |
被爆時地名 | 幟町 |
出典:国土地理院の空中写真(1945-1950撮影)を加工して掲載
被爆状況
日本家屋の屋内で被爆し、割れたガラスと倒壊した家屋によって負傷しました。下肢に裂傷がありました。
症状の経過
被爆当日からはきけがあり、8月8日までに3度嘔吐しました。全身倦怠感と下痢もありました。
下痢は8月8日に一度おさまりましたが、8月25日に再発、水様で血液が混じっていました。このころから発熱、脱毛と点状出血が出現し、食事がとれなくなりました。
当時の記録からわかること
栄養状態は不良でした。脱毛は軽度でした。頭部と顔面には多くの点状出血がありました。左腋窩には手のひら大の血腫がありました。
腹膜および腹膜下組織にソラマメ大の出血がいくつかみられました。
両側の肺、心外膜に点状出血がありました。
脾臓の脾柱はよく発達していましたが、リンパ濾胞は肉眼的にははっきりしませんでした。
胃粘膜には少数の古い点状出血がみられました。小腸の粘膜にはいくつかの点状出血が見られました。大腸では浮腫が著しく、横行結腸にうっ血と出血がありました。下行結腸には潰瘍がありました。
病理組織標本からわかること
肝臓では小葉中心部のうっ血と肝細胞の萎縮が見られます。軽度のリンパ球浸潤があります。
脾臓では濾胞の消失とリンパ球産生の低下が認められます。
リンパ節の濾胞は萎縮しており、類洞は拡張しています。
皮膚の毛嚢に好酸性物質が沈着しています。
まとめ
放射線の影響と思われる骨髄での造血細胞の低形成と、脾臓とリンパ節でのリンパ組織の萎縮が認められます。血小板減少による出血傾向のため、心外膜や皮膚などに点状出血がみられます。好中球の減少のため感染症にかかりやすい状態があり、肺炎と大腸炎などが生じています。
肺では出血を伴い、これが主な死因と考えられますが、通常の炎症反応で見られる好中球の浸潤はみられません。
皮膚の標本にみられた毛嚢の変化は、脱毛があったことと一致する所見であり、これも放射線の影響と思われます。
- 作成日
- 最終更新日
- 2022/01/31